検証!電子書籍元年から6年で何がどう変わったか

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2010年にアップルの「iPad」が発売され、今後は電子デバイスを片手に読書をするというスタイルが主流になるといわれました。こうしたデバイス自体はiPad以前にも、Amazon が2007年に「Kindle」を発売しており、既にコンテンツの豊富や、価格の安さなどで米国での電子書籍ブームを引き起こしていました。

では日本ではどうでしょうか?2010年が日本で「電子書籍元年」と呼ばれたのは、日本人に人気のApple社のタブレットのキラーアプリが「電子書籍」であった点が大きく、出版社や印刷会社取次代理店などの既存の書籍業界のプレイヤーが関心を示した、もしくは無関心でいられなかったという事情があります。

2010年から6年が過ぎました。この間、出版業界に「黒船襲来」といわれた電子書籍は、どのような歴史をたどってきたのでしょうか。

電子書籍が「黒船襲来」といわれたのは再販制度の破壊の懸念があったから

電子書籍元年当初、日本における電子書籍普及の歴史とは電子書籍を普及させたいAppleやAmazon VS させたくない日本の出版業界とのバトルの歴史といってもよい状況でした。

そもそも電子書籍は、なぜ既存の出版業界の黒船と呼ばれたのかというと、それは日本独特の慣行である書籍の「再販制度」が脅かされる危険があったことにあります。「再販制度」とは、出版物は“文化の保護”という理念によって、不当な値引きができないように出版物の価格を出版社自身が決め、書店は定価でしか販売することができない、という制度を指します。

再販制度に関しては歴史的経緯もあり、一概に善悪を論じがたいところですが、現在においては、例えば本を作るのに非常にコストがかかる割にはまったく売れない学術書などの文化的な価値のある書籍が、ゴシップ雑誌やポルノ雑誌などの手軽な娯楽本との価格競争に破れてやがて世の中から消え去り、世の中には低俗な本ばかりがあふれかえる、ということになりかねない、というのがいささか極端ですが、この制度を支持する人たちの主張です。

さて、電子書籍はまったく新しい形態の本であったため、日本での販売にこの「再販制度」を適応させるべきかどうか、というところが議論の的になりました。

Kindleというデバイスを持ち、iPadにも書籍を供給するAmazonは実際に電子書籍を既存の紙の本より安く提供する、という販売を行って利益を上げてきていたので、日本の出版界はそれと同じことを日本でやられては、日本中の本が売れる/売れないの二元論的な競争に巻き込まれ、やがて低俗な本で占められ、これまで再販制度によって守ってきた本の文化が壊滅すると考えたわけです。

この攻防は、現在日本の電子書籍も米国アマゾンのように紙の本よりも安く提供されているとおり、Amazonの勝利に終わりましたが、そこに至るまでにはいくたの論戦が繰り広げられました。とはいえ、実際に日本でも、電子書籍の方が安く提供されるようになっても、日本の出版物がゴシップやポルノ一色になったというような事実はありませんので、日本の出版業界の杞憂であったといえるでしょう。

黒船襲来から6年目の「Kindle Unlimited」こそ本当の黒船なのではないのか?

2016年8月、Amazonは月980円を払うと、一部のKindle本が読み放題になるKindle Unlimited(読み放題)サービスを開始しました。これまで「Dマガジン」や「タブホ」などの日本の出版会社系でも読み放題のサービスはありましたが、Kindle Unlimitedは普通の単行本の一部も読み放題のリストに加えたことに特徴があります。

ここで、先程の電子書籍元年の黒船騒ぎを思い出していただきたいのですが、あの時懸念されたのは価格の高い文化的な価値のある本が、それよりも手軽で安い娯楽本に駆逐されるのではないか?ということでした。

蓋を開けてみれば安い本が文化的な本を駆逐することはありませんでしたが、今回は高い、安いではなく、1冊ごとにお金を払うか定額かということです。定額で980円を払っているとはいえ、本を選択するときには無料と同じ感覚で本を選ぶわけですから、無料で読み放題の本に需要が殺到するのは間違いありません。

実際に、サービス開始直後に講談社の読み放題があまりにも読まれすぎたために、Amazon側から講談社へのコミッション料金の問題からか、全書籍が削除されることがありました。その後も、小学館、光文社、朝日新聞出版、三笠書房、東京書籍、白泉社、芳文社、フランス書院などの書籍も大幅に「Kindle Unlimited」から削除されています。

ここで問題となるのは、この時、削除するという予告すら出版社にはなく、突然Amazonの一方的な判断でリストから書籍が削除されたことです。この事態はまさに書籍が文化的な価値でも、読者の需要でもなく、1オンライン書店であるAmazonの一存で消滅することの怖さを物語っています。

まとめ

高価な学術書か、低俗なゴシップやポルノか、という電子書籍元年の黒船騒ぎでは、まだどんな本が残っていくかは読者の需要にかかっていました。さいわいにして低俗な娯楽本やポルノしか残らなかったという事態は起きず日本の出版文化が大きく壊れるようなこともありませんでした。

しかし、今回の「Kindle Unlimited」リスト削除事件は杞憂でない黒船来航の可能性があります。この事件ではっきりしたこと、それは、今度こそAmazonが本の生殺与奪権をしっかり握ったということではないでしょうか?

今後、この状況がどう推移していくのか、見守りたいと思います。